安西水丸と学生時代に飲みに行った事がありました。
その時、ゼミの生徒に混じって僕の彼女も連れて行ったのですが、
「ところで、君たち結婚するの?」と先生に聞かれました。
「いやあ」と二人で言い淀んでいると、
「僕は古い人間だから、つき合ったらすぐ結婚したくなっちゃうよ。」
と笑っていたのを覚えています。
その後僕たちは結婚したけどね。
また、彼は大学卒業後、デザイナーとして電通に入社したのですが、
その経緯も話してくれた事があります。
電通の試験の前日、銀座を歩いていたら、
高校時代の英語の先生にバッタリ出会ったんだそうです。
明日試験だという事を伝えると、
「たまにはこれでも読んでおけ」と英字新聞を手渡された。
自宅に帰り、何の気なしに読んでいたその新聞の一面記事が
次の日の試験にそのまま出たそうで、
英語はトップの成績だった。という事です。
彼の自伝的な小説「70パーセントの青空」では、
主人公は広告代理店の海外広告部門に配属されている様子が描かれていますので、
テストで英語がトップだったというのはあながちウソではないと思われます。
また、当時でも日芸から電通に入社する事は難しかったらしく、
目立たない存在だったワタナベノボル(本名)は
「電通に受かったワタナベって誰だ?」と教授陣にも揶揄されていたそうな。
色々と伝説めいた事の多い人なのですが、
そういう伝説を自分で作り上げていく事自体が
彼独特のカタルシスであり、ダンディズムだったんだろうな。と僕は思っています。
そして、僕が今まで好きになった人に共通している、
「死」を想起させる透明な存在感を持っていた人でした。
やはり安西水丸には「死」が似合うと思うのです。
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