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Y君のペンシル

小学校5年生だった頃、クラスにY君という子が転入してきた。

 

まだクラスにも慣れていない中、彼はクラスメイト数人を自宅に招いてくれた。坂の途中にある家で、ちょっと変わった造りの家だった。

友人たちと当時流行りのテレビゲームをやっている最中、Y君が2階に上がって行ったと思うと、見た事のないシャープペンシルを皆に配った。

 

「あげる」

 

太い芯が入っていて、色もあずき色で武骨でカッコいい。見た事もない。

彼はお近づきの印に僕たちにこんな珍しい物をくれたのだった。

 

 

それから長い年月が経ち、偶然母からY君のお父さんは建築家だという事を聞いた。そして脳梗塞で倒れて仕事を辞め、自宅でリハビリをしているとも。

 

そうか。あの時のペンシルはY君が2階にあったお父さんの仕事場からくすねてきた製図用芯ホルダーだったのだ。

 

後でバレてY君は怒られなかっただろうか?

そうまでして僕たちに気に入られたかったのだろうか?

お父さんは今でも覚えているだろうか?

 

そんな様々な思いを抱きながら、実はその製図用ペンシルを僕は今も仕事で使っている。

今ではたまにアタリケイを引いたりする位だが、手に取ったあずき色の芯ホルダーは、少年の日の後悔にも似た甘酸っぱい気持ちを思い出させてくれる。